モラハラを受けている
毎日、夫の帰宅時間が近づくと、緊張してきて、落ち着かない。いつも夫の顔色を気にするという場合、夫はモラハラ夫かもしれません。
夫のモラハラに長期間晒されているとあなたの心身だけでなく子どもにも悪影響を及ぼします。
一日も早くモラハラ夫から離れて平穏な生活を取り戻すことをお勧めします。
目次
1 モラハラ(モラルハラスメント)行為
程度の差はありますが、次のようなことを1つでも夫からされていたら、夫からモラハラを受けているといえます。
説教、土下座させる、反省文書かせる
モラハラ夫は妻に説教をすることが非常に多いです。説教の理由はほんの些細なことで、例えば、風呂の蓋が閉まっていたか否かなど、普通なら気にも留めないようなことで、長時間の説教が始まります。時には夜通し、朝まで説教する夫もいます。朝まで説教して、「お前のせいで寝れなかった」とまた怒り始めるといった具合です。妻に土下座や反省文をかかせて、やっと説教が終わるということもあります。
すぐ「離婚だ」という。
妻に「離婚だ」といって怖がらせて、自分の思い通りにしようとします。単に妻を支配するために言っているだけなので、実際には離婚するつもりはありません。ですので、妻が夫に離婚を求めると、今度は、夫が逆に強硬に離婚に反対します。
ケチ
例えば、マイホームを買うための頭金を貯めようと夫婦で協力しあって節約をしようとするのは問題ありません。そうではなく、夫が自分の趣味など自分のためには気にせずお金を使うけれど、妻子のものについては異常にケチになるのがモラハラ夫です。例えば、妻がスーパーで購入したものを1円単位でチェックし、夫が少しでも無駄だと感じたものがあれば、生活費を減らされたり、長時間説教の始まりです。
不機嫌、無視
些細なことで夫の気に入らないことがあると、不機嫌になり、長期間無視することもモラハラ夫にはよくあります。1週間無視はざらで、長くなると無視が数か月に及ぶこともあります。あまりに些細なことが理由であることが多いため、妻としては、なぜ、夫が無視しているのか分からないことが多いです。
命令、怒鳴る、
普通に言えばいいことを命令口調だったり、いちいち怒鳴ったりします。
大きな音を立てる、物を壊す
自分の思い通りにならないことに苛立って、大きな音をたてたり、物を壊すこともあります。これにより妻を恐怖に陥らせ、自分の思い通りにしようとします。
不可能なことを言う
妻が夫に反論しようとすると、夫は、「なら、俺が主夫するから、俺の同じ位稼げよ」などと不可能なことを言って、妻を追い詰めます。
外出許可制、制限、監視
夫の了解を得ないで妻が出かけると不機嫌になります。妻が外出したとしても、頻繁にラインや着信をよこして反応しないでいると後で怒られてしまいます。
病気の看病しない
自分が少しでも体調が悪いと重病人のように大騒ぎするのに、妻の体調が悪くても大げさだと言って、妻の体調より自分の食事の心配をする。
2 モラハラをする夫の心理
モラハラをする夫の心理の根底にあるのは妻に対する支配です。そして、全ての物事を自分中心に考えます。これは、殴ったりなど身体的な暴力を振るう夫の心理と共通します。
自分の希望、思いを実現するために、妻をコントロールしようとします。そのために、敢えて、妻が傷ついたり、嫌な気持ちになることを言って、妻が自信を喪失させ、コントロールしやすくします。
夫がこのように妻を支配しようとするのは、夫の幼少期の家庭環境など様々な理由で自尊心が低く、劣等感を抱いていることが原因とも言われます。
その低い自尊心を満たし、劣等感を克服するため、自分より低い人を探したり、自分より低い人を作ることで、自分の方が上だという意識を持とうとするのです。
幼少期の家庭環境によることが大きいため、このようなモラハラ環境は、夫の家系に代々受け継がれていることが多く、夫の父親や祖父もDVやモラハラをしていたということがよくあります。
3 何から始めるか、何をする必要があるか。
このようなモラハラ夫と一緒にいると妻は心身を病んでしまいます。また、子どももモラハラ夫の影響を受けて、将来、子どももモラハラ人間になってしまう危険があります。そのために、少しでも早く、モラハラ夫と離れた方が良いです。
(1)証拠確保
もっとも、夫と別居する前に、証拠を集めましょう。モラハラは証拠を残すことは難しいのですが、以下のようなものが証拠になります。
- 日記、手帳記録
「モラハラを受けた」と書くのではなく、いつ、どこで、何をされたか、何を言われたかを具体的に記録しましょう。そして1回だけではなく、何度も日常的に行われていることが分かるように、できるだけたくさん、モラハラ行為の度に記録しておくことをお勧めします。
- ライン、メール
夫のモラハラ言動が分かるラインやメールも証拠になります。また、例えば、外出中に何度も着信があったことが分かるスクリーンショットも証拠になります。
- 音声
なかなか記録することは難しいですが、夫の罵倒や説教の録音も証拠になります。モラハラ夫は、第三者に対しては別人のように「いい人」を演じることがあり、裁判所の調停委員の前でも「いい人」を演じ、調停員がそれを信じてしまうことがあります。そこで、音声や音声を書き起こしたものを裁判所に提出することで、調停での流れが変わることもあります。
- カウンセリング記録
夫の言動について悩み、カウンセリングを受けた場合、そのカウンセリングの記録も証拠になり得ます。
- 医療記録
夫の言動が原因で、体調を崩し、診察を受けることもあります。その診療記録や診断書も証拠になり得ます。
その他、モラハラ夫は高収入で財産をため込んでいることも多いので、収入や財産に関する証拠収集も忘れずに。財産資料については、こちらも御覧ください。
(2)別居
①別居すべきか否か
夫からモラハラを受けている場合、別居すべきか悩まれる方がいらっしゃいますが、モラハラ夫から逃れて新しい人生を歩みたいと思われている場合は、別居は不可欠だと思います。
同居したまま夫と離婚の話をすることは、全く不可能ではありませんが、難しいです。モラハラ夫は、妻が自分から離れようとしていることを知るや否や、妻を引き留めようと甘い言葉で丸め込むことに全力を尽くすか、逆に、さらにモラハラ行為をエスカレートさせて、妻を恐怖で支配しようとします。いずれにしても、妻にとっては、離婚への意欲がそがれてしまい、再びそれまでと変わらない生活になってしまいます。
ですので、離婚を目指すのであれば、別居した方が良いです。
②夫の同意は必要ない。
夫の同意は得られないから別居できないと悩む方もいらっしゃいますが、別居するのに夫の同意は必要ありません。夫婦が別居する場合、殆どの場合は、他方の同意なく別居を開始します。そのこと自体がその後の離婚手続きで不利に影響することはありません。
③荷物
別居する際には、自分や同居する子どものものや自分が使用するものは出来る限り、持っていく方が良いです。同居中、妻しか使用していなかった物でも、妻の別居後、夫が妻への嫌がらせとして、全て処分してしまうことがあります。ですので、必ず確保したいものは、別居の際に持って出ることをお勧めします。
④子ども
もし、妻が同居中、主に子の世話をしていた場合は、別居後も引き続き、子の世話ができるように子を連れて出た方が良いです。妻が夫の同意なく子を連れて別居をした場合、夫が、妻のことを「誘拐だ」と主張することがあります。しかし、日本国内では、それまで妻が主に子の世話をしていた場合は、妻が子を連れて出ていくことは違法ではなく「誘拐」になりません。それまで妻が子の世話をしていたのに、その子を置いて妻が出て行ってしまっては、子の世話が不十分となり、むしろその方が子にとって危険で問題です。
もっとも、子について争いが起きそうな場合は、別居前から弁護士に相談しながら慎重に進めた方が良いです。
(3)弁護士に依頼
モラハラ夫が相手の場合は、別居・離婚を進めるにあたって、弁護士に依頼し、弁護士が窓口になった方が良いです。弁護士が付いていないと、妻自身が夫とやり取りしなければなりません。その場合、同居中と同じように、又は、同居中以上に、夫は自分の主張を押し通そうとするだけで、全く話が噛み合わず、話は進みませんし、妻の心理的負担も著しいです。夫の対応は全て弁護士にまかせ、妻自身は、長年の夫からの言動による精神的ダメージを癒し、新しい生活の準備をすることに専念した方が良いです。
4 手続き
(1)DV保護命令(接近禁止命令)は?
DV保護命令とは、夫に対し妻に接近することを等を禁止するDV保護法に基づく裁判所の命令です。別居に伴い、夫から接触されないよう、このDV保護命令を希望される方も多いです。
しかしながら、現時点では、DV保護命令の対象は、身体的暴力と脅迫に限定されていて、身体的暴力や脅迫を伴わないモラルハラスメント行為では、DV保護命令を出してもらうことは出来ません。
もっとも、現在、女性に対する暴力に関する専門調査会が精神的暴力、つまりモラハラの場合もDV保護命令の対象にすることを目指してDV保護法の改正が検討されています。令和4年10月に中間報告が出されましたので、将来、モラハラについてもDV保護命令の対象になるかもしれません。
(2)調停
手続きとしては、婚姻費用分担請求調停と夫婦関係調整(離婚)調停を申し立てることになります。
モラハラケースでの離婚調停で注意すべき点は、調停員がモラハラについてあまり理解してくれないことがあるという点です。モラハラ行為は、1つ1つの行為は比較的深刻ではないことが多いため、調停員に深刻さが伝わりにくい場合があります。そのため、「日常的にこのようなことされていては、婚姻生活は続けることが出来ないな」と思ってもらえるように、モラハラの具体的なエピソードを数多く説明するのが良いと思います。
もっとも、夫の反応によって、モラハラエピソードをいつどれだけ説明すべきか変わってきますので、弁護士と相談しながら進めると良いです。
モラハラ夫によっては、第三者には良い顔をしようとする人もいて、調停員や裁判官の前では素直になる場合もあります。その場合は、最終的に調停で離婚や離婚条件について、話し合い、取り決めできることもあります。
もっとも、モラハラ夫の中には、第三者の話も聞かず、自分の考えに固執し、実務上認められない主張を曲げないという人もいます。その場合は、手続きも長期化し、調停での解決は困難で、離婚訴訟をせざるを得ないことも少なくありません。
(3)裁判
調停で離婚合意が出来ない場合は、別途、離婚裁判をする必要があります。
離婚裁判では、協議離婚や調停離婚と異なり、民法770条で決められている離婚事由が必要となります。
モラハラが離婚事由にあたるかが問題になります。この点、モラハラ行為は1つ1つはあまり深刻な行動でないこともあり、離婚事由にあたらないのではないかという考えがちです。
離婚裁判では、裁判官に「こんなこと日常的にされていたら結婚生活やってられないな」「こんなに妻が離婚したいと思っているんだから、婚姻を続けさせても意味ないな」と思ってもらえれば離婚が認められます。それは、モラハラ行為を具体的に詳細に説明したり、証拠を工夫することで可能です。
ですので、夫の言動で長年辛い思いをしてきた方は、「この程度の証拠では離婚は出来ないのではないか」などと思う必要はありません。
5 まとめ
以上、モラハラを受けている場合についてお話しました。
モラハラは、あなたご自身の心身を傷つけるだけでなく、お子さんへの悪影響も甚大です。お子さんが将来家庭を持ったときに、配偶者にモラハラをしてしまったり、配偶者のモラハラを受け入れてしまったりと、モラハラが次世代に受け継がれてしまう危険があります。そのようなモラハラの連鎖を断ち切るためにも、1日も早く、新たな生活への一歩を踏み出していただければと思います。