財産分与を有利に進めたい
財産分与は、証拠をいかに集めたかによって、結果が大きく変わるといって過言ではありません。
別居してから証拠を集めようとしても、なかなか難しいことが多いので、同居中に、また、相手に警戒される前に、できる限り集めておくことが大切です。
証拠を集めるといっても、例えば預金残高など詳細な情報を得る必要は無く、どこに、どのような財産があって、どこの金融機関を使用しているかという情報だけでも、後の裁判手続きで裁判所を通じた照会手続き(調査嘱託手続き)を行う材料になり得ますので、十分有用です。
また、証拠を集めることに加え、夫が勝手に財産を処分してしまわないように手立てを講じる必要があります。夫に財産処分の危険性がある場合は、仮差押手続きを検討する必要もあります。
目次
1 婚姻財産についての証拠
婚姻財産いついての資料、情報は以下のようなものがあります。
(1) 預貯金
- 通帳、キャッシュカード
同居中に貯めた預貯金を示すものは、それぞれの名義の口座の通帳や取引明細です。通帳のコピーや取引明細をとれなくても、夫が使用している銀行名と支店名が分かれば、後で調べることが可能です。少なくとも、夫が使用している銀行と支店名の情報は確保するようにしましょう。 - 銀行の封筒、カレンダー、ポケットティッシュ、文房具、うちわなどノベルティ使用している銀行の可能性があります。
- スマホやIpad、パソコンにダウンロードされているアプリ 最近はネット銀行も多く、ネット銀行は、通常、スマホ等にアプリをダウンロードして、アクセスできるようになっています。アプリの中は見なくても、スマホのホームに金融機関のアイコンがあれば、その銀行を使用している可能性が高いです。
- 財形貯蓄
勤務先の会社によっては、給与から毎月積み立てがされている場合があります。その場合、給与明細の項目から分かる場合があります。
(2)有価証券
- 証券会社からの郵便物
夫が株式や債券を有している場合は、証券会社に口座があるので、その証券会社の情報を確保するようにしましょう。 - 株を持っている会社からの株主総会通知
株を持っている会社から株主総会通知など、郵便物が来ていることがありますので、どこから来たのか情報を記録しておくと良いでしょう。 - iDeCo、つみたてNISA
最近はやりのiDeCoやつみたてNISAも、婚姻中の夫婦どちらかの収入を積み立てている場合は、財産分与の対象になります。開設の際の郵便物があることが多いです。 - 企業年金・企業型確定拠出年金
企業年金、確定拠出年金も財産分与の対象になります。これらは証券会社からの郵便物で判明することがあります。給与明細から毎月積み立てられていることが多く、給与明細からも分かる場合もあります。 - 確定申告書の控え
株式等証券を保有していえる場合、配当などを得て、税務申告をしている場合がありますので、確定申告控えから証券等の存在を知ることが出来ます。
(4) 仮想通貨
- 仮想通貨取引所等からの郵便物
口座開設時の郵便物で仮想通貨を持っていることが分かる可能性があります。
(5)不動産
- 不動産全部事項証明書
不動産の情報については、土地と建物の全部事項証明を法務局で取ることが出来ます。
全部事項証明書には、住宅ローンを借りている金融機関が分かる場合もあり、その金融機関に預金口座を持っていることも多いです。 - 固定資産納税通知書
不動産の名義人宛てに毎年、役所から固定資産納税通知書が来ますので、それで不動産の所有を知ることが出来ます。 - 名寄帳
不動産を所有していることは分かるが、正確な住所が分からない場合、市区町村まで分かれば、その市区町村の役場で、名寄帳を確認することで不動産の所在地が分かります。 - 査定書
不動産業者に簡易査定を依頼すれば、不動産がどのくらいの価値、価額か分かります。インターネット等を通じて比較的簡単にとることが出来ます。 - 不動産管理会社からの郵便物
投資用物件を所有している場合、物件の管理会社から郵便物など来ている場合があります。確定申告控えからも投資物件の存在は知ることが出来ます。
(6)生命保険
- 生命保険証書
解約返戻金がある生命保険も財産分与の対象になります。 - 生命保険会社からの郵便物
- 通帳の記帳
通帳の保険料引落の記録や保険一時金の入金の記録から生命保険の存在が分かる場合もあります。 - スマートフォンやIpad、パソコンにあるアプリ
使用している保険会社のアプリがスマホにダウンロードされている場合があります。
(7)退職金
- 退職金規定
退職金も財産分与の対象になるので、忘れないようにしましょう。
退職金は別居時に退職したと仮定した場合の退職金見込み額の婚姻同居期間に相当する割合が財産分与の対象になります。この退職金見込み額は夫が勤務先から計算書を出してもらう必要があります。夫が、自分で取ろうとしない場合は、裁判所の調査嘱託という手続きで夫の勤務先に照会をかけることになります。
(8)ゴルフ会員権
- ゴルフ会員権を持っているゴルフ場の会員権や名札
ゴルフ場によっては、会員権が高額な場合もあります。ゴルフ会員権の相場は、ネットで調べることが出来る場合もあります。
(9)その他、メールや電話の発信先、受信元、アドレス帳、履歴、などから判明する場合もあります。
2 特有財産についての証拠
財産があるかないかについての証拠の他に特有財産についての証拠も必要です。
例えば、妻の実家から資金援助を受けて、不動産購入の際の頭金に充てる場合があります。その場合、頭金部分は、妻の特有財産で、財産分与の対象にはなりません。つまり、夫婦の収入で支払った部分の1/2に加えて、この特有部分も妻が取得することになります。
もっとも、この特有部分を主張するためには、その主張をする側、つまり、ここの例では妻が証明しなければなりません。その証拠としては、例えば、相続税申告資料(相続財産が使われた場合)、親名義の通帳又は取引履歴など、不動産購入のお金が妻の親等から出ているお金の流れが客観的に分かる証拠が必要となります。
3 仮差押え
例えば、もし、財産分与の対象となる財産が夫名義の不動産のみだったり、夫名義の預金のみだったりした場合、夫が、妻が離婚したいと思っていると知るや否や、自分の財産を売却して、その利益を隠してしまうということがあります。そうなると、後に裁判所で財産分与判決が認められたとしても、その判決内容を回収することができず、判決が絵に描いた餅になってしまいます。それを避けるために、夫が勝手に処分できないようにする手立て、つまり、不動産や預金を仮に差押えする必要があります。
仮差押申立は、家庭裁判所の人訴係(離婚訴訟を担当する部署)に行います。この財産分与を確保する目的での仮差押えは、他の第三者に対する民事の仮差押えに比べて、審査が厳しくなく、認められやすいです。さらに、仮差押をするためには保証金を積む必要があるのですが、その保証金も他の事件での仮差押えに比べて少ない金額で認められることが多いです。これは、財産分与の財産は、実質的には妻の物でもあるという考えが根底にあるからだと思います。
とはいえ、申立に際して、婚姻財産の資料を含め、離婚訴訟で提出する書類を一通り揃え、申立書には、訴状に記載する離婚原因等の法的主張や仮差押えをする必要性を書く必要があります。そのため、準備が複雑ですので、弁護士に依頼してしっかりと準備して申し立てる必要があります。