民法改正について(離婚後共同親権に関連する部分)
1 はじめに
令和6年5月17日に離婚後共同親権を含む民法改正法案が可決され、5月24日に公布されました。公布から2年以内に施行されることになっています。
可決に至るまで、共同親権推進派と共同親権反対派から様々な意見がありましたが、ここではその点には触れず、主な改正内容のポイントについて触れたいと思います。
2 改正部分
(1)離婚後共同親権
今までは、未成年者がいる夫婦が離婚する場合、未成年者の親権者は父母のどちらか1人に決めなければなりませんでした。
しかし、今回の改正で、父母の協議で、離婚後の親権を父母のどちらか1人を単独親権者とするだけでなく、父母の共同親権とすることができるようになりました。
(819条1項)
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定めるものとすること。
今までは、親権者を指定しないと協議による離婚届出ができませんでした。
しかし、今回の改正で、親権者指定についての調停又は審判を申し立てすれば、協議による離婚届を提出することができるようになりました。
もっとも、親権、その他の条件を決めないまま、先に離婚だけすることのメリットはあまり無いことが多いので、親権者が決まらないまま離婚届を出そうかという話になっている場合は、まずは弁護士に相談して慎重に進めましょう。
(765条)
離婚の届出は・・・夫婦間に成年に達しない子がある場合には次の各号のいずれかに該当することを認めた上でなければ、受理することができない。
- 親権者の定めがされていること。
- 親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申し立てがされていること。
(2)裁判所の考慮事由
もし、夫婦(父母)の協議で、親権について単独にするか、単独にするとしてどちらにするか、共同親権にするかについて決めることができない場合は、裁判所が決めることになります。
(819条2項)
裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定めるものとすること。
裁判所が親権を決める際には、子の利益、父母と子の関係、父母の関係その他一切の事情を考慮して決めるとされています。
そして、父母のどちらかが子の心身に害悪を及ぼす恐れがある場合や、父母の一方が他方に暴力や心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合、父母の協議が整わない理由など親権の共同行使が難しいと認められる場合は、裁判所は単独親権者を指定しなければならないとされました。
(819条7項)
裁判所は、・・・・父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならないとすること。この場合において、次の(1)または(2)いずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならにものとすること(819条7項)
- 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき、
- 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(暴力など)を受ける恐れの有無、父母の協議が整わない理由、その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
裁判所が、具体的には、どのような場合に単独親権にするか、法律施行後の裁判所の実務を待つ必要がありますが、例えば、一方の親が他方の親を刑事告訴している事情がある場合などは、父母が共同して親権を行うことが困難と判断される可能性があるのではないかと思います。
(3)親権者変更
現在も、裁判所が親権者を変更することが認められていますが、「子の親族の請求」の場合に限定されていました。改正により、「子の親族」に加えて「子」自身の請求による親権者変更も認められることになりました。
共同親権との関係では、協議離婚時に当事者間で共同親権として離婚したが、その後に単独親権への変更を求めたり、逆に、離婚時には一方を単独親権として離婚したが、その後に共同親権への変更を求める場合が考えられます。
(819条6項)
子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができるものとすること。
協議離婚時に決めた親権について、裁判所が変更を認める場合に考慮すべき事情についても法律で明記されました。
例えば、夫婦間でDVがあり、対等な協議ができないまま、共同親権と決めて協議離婚をした場合など、夫婦の関係性、協議の経過、共同親権と決めた経緯などを考慮して、親権者を変更することが子の利益になるかを裁判所が検討し判断します。
このように、一旦共同親権と決めても、その後に変更する途はありますが、1度合意して決めたことを後で変更することは、簡単ではありません。
ですので、離婚時に親権を決めるとき、特に共同親権としようとする場合は、それまで夫婦の関係性、子とのかかわりなどから、離婚後も子についての意思決定がスムーズにいくかをよく考えて慎重に決める必要があると思います。
(819条8項)
家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものすること。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事調停の有無又は裁判外紛争解決手続きの利用の有無、協議の結果について、公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとすること(819条8項)
(4)親権行使について
共同親権の場合でも、他方が親権行使できない場合や、子の利益のために急迫の事情がある場合、日常的な行為は、一方の親権者が単独で親権を行使できると規定されました。
例えば、子が緊急手術が必要な場合や、子の学校の受験で出願期限が迫っている場合は、「子の利益のために急迫の事情」といえるのではないかと思います。
また、婚姻中で同居しているが、夫の DV から逃れるために子と一緒に別居する場合も「子の利益のために急迫の事情」があると考えられます。ただ、この場合「DV」について争いが生じる可能性が高いので、別居後速やかに裁判所に監護者指定の申し立てをし、裁判所の判断を仰いだ方が良いと思います。
(824条の2)
1.親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。① その一方のみが親権者であるとき。② 他の一方が親権を行うことができないとき。③ 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2.父母は、その双方が親権者であるときであっても、監護及び教育に関する日常の行為にかかる親権の行使を単独ですることができる。
3.特定の事項にかかる親権の行使について、父母間に協議が整わない場合であって、子のために必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
(5)監護の分掌
離婚時に、監護者や監護の分掌、面会交流、養育費など協議で取り決めすると規定されています。
現在も、離婚時に監護者や面会交流、養育費を取り決めるとされていますが、今回の改正で「監護の分掌」が新たに規定されました。
「監護の分掌」とはあまり聞きなれない言葉ですが、日々の監護を父母で分担することです。具体的には、平日は母が、土日は父が監護するとか、習い事や保育園や幼稚園への送迎を分担するとか、双方がかなり深く監護にかかわることになります。
ですので、離婚後、子の監護の分掌を決めるには、婚姻中、父母が同等に子の世話にかかわってきて、父母の間で子へのかかわりについてはお互いに信頼していることが大前提で、婚姻同居中に子の世話にあまりかかわっていないのに、離婚後に監護の分掌するのは、子にとって不安定な環境を作ってしまうのので注意が必要です。
(766条1項)
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者又は子の監護の分掌、父又は母との交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定めるものとすること。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。(824条の3第1項)
766条により指定された監護すべき者は、親権を行う者と同一の権利義務を有するものとすること。この場合において、子の監護すべき者は、単独で、子の監護及び教育、居所の指定及び変更並びの営業の許可、その許可の取り消し及びその制限をすることができるものとすること護者ではない親権者は、監護者のかかる行為を妨げてはならない。
3 おわりに
離婚後の共同親権が、どのように運用されるかは、改正民法が施行された後の家庭裁判所の実務を待つ必要がありますが、これまで以上に裁判所は離婚後も子が父母双方とかかわりを持つことが大切であるという考えが強くなることが予想されます。
そういったことを踏まえ、別居、離婚について、どのように進めていくのがお子さんにとってベストなのか、考えていくことになります。