財産分与割合

1 はじめに

離婚後の生活のためにも、離婚の際の財産分与の問題は、非常に大切で、特に熟年離婚で婚姻期間が長い場合は、老後の生活にも影響しますので、一番重要な問題といっても過言ではありません。

2 2分の1ルール

離婚の際の財産分与は、婚姻中に形成された財産を離婚時に清算する(分ける)ことですが、どのような割合で分けるかという問題が、寄与割合の問題です。

中には、婚姻中であっても、自分の給料で蓄えた財産は、自分のものと思っている方もいらっしゃいますが、婚姻中に夫婦のどちらかの収入で築いた財産は、その名義がどちらであっても実質的には夫婦共有とされ、離婚時に分けるときの割合は、2分の1とするのが原則になっています。

これは2分の1ルールと呼ばれていて、夫婦の財産を形成するための夫婦の寄与の程度は、特別な事情がない限り、同じという考え方です。2分の1が原則としている以上、2分の1ではない例外もあるのですが、裁判所では、この例外にあたるには、2分の1とすることが不公平といえる顕著な事情が明確に認定できる場合と、極めて限定的な場合と考えているようです。

平成6年5月17日に成立した改正民法では、768条で「離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当事者双方がその婚姻中に取得し、又は維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び寄与の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。この場合において、婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする。」と規定し、衡平の観点から、各当事者の寄与の程度が違うことがはっきりしない場合には、その寄与度は同じとして、それまでの家庭裁判所実務を明文化し、また、その際に考慮する要素を具体的に明示しました。

3 裁判例

どのような場合に2分の1ルールが適用されない例外的な場合にあたるかは、過去の裁判例から探ることになります。

裁判例を見てみましょう。

1.昭和44年12月24日福岡高裁判決(判例タイムズNo.244-142)

夫は婚姻前から医師で、開業して、医療法人化(もっとも、個人経営的色彩が高い)その後、資産、収入ともに増加し、売り上げは、年間1億円以上。夫の不貞、虐待等により別居し、妻は会社勤務でわずかな収入を得ていた。妻は、夫名義財産約4億円の内、半分の2億円の財産分与請求。これについて、裁判所は、一般的には妻の受けられる財産分与額は、夫の財産の2分の1を原則とすることは認めつつも、この事案においては、二分の1ルールにはよらず、2000万円としました。つまり、夫と妻の寄与割合は、夫95妻5としました。

昭和44年のサラリーマンの平均月給は、約5万円。現在のサラリーマンの平均月給は約33万円なので、今の価値で考えると、夫名義財産は、4億円の約6倍の24億円の財産といえます。妻が得た分与額は、今の価値(6倍)で考えると、1億2000万円くらいです。

2.昭和50年6月30日 松山地方裁判所西条支部判決(判例時報808号93頁)。

妻が内職等でコツコツと財産形成していたのですが、他方、夫は、不貞したり、飲酒して妻に暴力まで振るっていました。夫の暴力を契機に妻は2人の子を一緒に別居をしましたが、夫から婚姻費用の支払うもなく、妻が2人の子どのたちを独力で大学まで進学させました。裁判所は、分与割合は、妻7夫3の割合で、夫に共有財産3387万円の内、2387万3805円を妻に分与を命じました。

この裁判例では、裁判所は、一切の事情を考慮して、妻が申し立てた財産分与額の2.7倍もの財産分与を認めた例です。別居中の夫が負担していなかった婚姻費用や学費なども加味されています。

3.平成6年5月31日 東京家庭裁判所審判(判例タイムズNo.913-140)

夫婦は、芸術家としてそれぞれ活動に従事し、各自で自分の収入・預貯金を管理していたので、婚姻中の著作物、預貯金は、名義人に帰属する旨の合意があったとして、清算の対象にならないとして、不動産の一部を財産分与の対象となる婚姻財産とした。分与の割合は、共に芸術家として稼働していたが、妻がもっぱら家事労働に従事していたとして、妻6夫4の割合での分与としました。

4.平成12年3月8日 大阪高等裁判所判決(判例時報1744号91頁)

夫は一級海技士の資格を持ち、1年のうちほとんどを海上での過酷な仕事による財産形成であることが重視され、夫7妻3の割合で、共有財産7600万円中、3割の2300万円を妻へ財産分与としました。

このケースでは、夫の妻に対する激しい暴力があり、それにより妻は後遺症を負ったため、後遺症慰謝料や逸失利益、離婚慰謝料の合計約2000万円の支払も命じられたので、夫が妻に支払った合計金額は、合計約4300万円でした。

5.平成15年9月26日 東京地方裁判所判決(判例秘書)

夫は東証一部上場会社の代表取締役で、婚姻中に形成した財産は、220億円でした。ただ、共有財産の多くが夫の特有財産で、その運用、管理も運用、管理も夫で、妻が具体的に共有財産の取得に寄与したり、経営に直接的、具体的に寄与し、特有財産の維持に協力した場面は認められないことなどから、分与割合を夫95妻5として、妻への財産分与額を10憶円としました。

6.平成23年7月27日 大阪家庭裁判所審判(判例時報2154号78頁)

内縁の夫は、会社の住宅設備機器等の会社の代表取締役で、内縁解消後、夫は死亡し、相続の中で財産分与が問題となったケースです。内縁解消時の財産は、4億円弱でしたが、内縁開始時に夫はすでに2億円の金融資産を有していて、内縁解消時の資産は、内縁開始時の金融資産を運用したり、バブル経済下の株式の評価額の増大が多くを占めていたこと(つまり夫の特有財産の運用による財産形成だったこと)が考慮され、夫8妻2の割合での財産分与が認められました。

7.平成26年3月13日 大阪高等裁判所判決(判例タイムズ No.1411-177)

夫は、医師で医療法人経営。婚姻財産の合計約3億円

裁判所は、寄与割合は、原則2分の1だが、例外として、

  • スポーツ選手のように特殊な技能で多額な収入を得る時期もあるが、加齢で一定の時期以降は、通常の労働者に比べ厳しい経済生活を余儀なくされるなど、高額の収入に将来の生活費を考慮したベースの賃金を前倒しして支払うことによって、一定の生涯賃金を保証するような意味が含まれる事情がある場合
  • 高額な収入の基礎となる特殊技能が、婚姻前の本人の個人的な努力で形成され、婚姻後もその才能な労力によって多額な財産が形成された場合、かかる事情を考慮しないと個人の尊厳が確保されたことになるとはいいがたい場合

かかる事情を考慮して寄与割合を決めるとしました。

このケースでは、裁判所は、夫が婚姻前に努力して医師の資格を取り、婚姻後もその資格で高額の収入を得て、財産を築いたことを考慮して、夫6:妻4の割合とし、夫に妻へ1億3000万円余りの財産分与を命じました。

8.平成29年3月2日 東京高等裁判所決定(判例タイムズNo.1446-114)

夫が婚姻中に購入して当選した宝くじ2億円を取得し、それを原資として預貯金や保険で財産を形成しました。裁判所は、婚姻後の収入の一部である小遣いが宝くじ購入の原資なので、宝くじで得たお金の代替物(預貯金、保険)は、夫婦の共有財産だとしました。ただ、夫が小遣いの一部で宝くじを買い続けで当選したので、分与割合は、夫6妻4としました。2億円当選したが、その後、住宅ローンや生活費に充てるなどして、夫名義残差は、約9000万円で、裁判所は、これを夫6妻4の割合で、夫から妻に不動産と金銭の形で財産分与することを命じました。

以上の裁判例を見ると、

  1. 婚姻中に築いた財産が非常に多い(何億レベル)。
  2. 特別な資格や能力により高収入が得られ、その財産形成がそれによる。例えば、医師、弁護士、スポーツ選手、経営者など。
  3. 特有財産を活用して形成した財産が多くを占める
  4. 一方が正当な理由なく就労家事など何もしない

といった場合、それが証拠上、明白な場合は、2分の1ルールが適用されない例外に当たるといえそうです。

4 まとめ

以上のとおり、財産分与の分与割合は、2分の1が原則で、例外は非常に限定的ですが、収入が多い側(多くは夫)からの主張としては、よくある主張です。

あまり認められない主張だと、油断することなく、個別の事情をひろって、丁寧に主張反論し、対応しましょう。

この記事を書いた人

弁護士髙木由美子

2000年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会所属:53期)。
弁護士登録以降、離婚・国際離婚などの家事事件を中心に扱い、年間100件以上の相談を受けてきました。ご依頼者がベストな解決にたどり着けるためのサポートをすることは当然として、その過程でもご依頼者が安心して進めることが出来るように心がけています。
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