離婚するときいつの時点の財産を分けるの?

夫婦が離婚する場合、結婚してからそれまでに夫婦で作った財産を分けることになり、これを財産分与といいます。

この財産分与はいつの時点の財産を分けるのでしょうか?

婚姻期間中、一方が留学したり、単身赴任したり、子の学校のために夫婦の一方と子が学校に近くに居住したり、仕事で多忙な夫が職場近くに部屋を借りて平日夫はそこで過ごしたり、将来の離婚を見据えて別居したりなど、様々な生活形態があるため、いつの時点の財産を分けるのか、つまり、財産分与の基準時がよく問題になります。

以下ご説明します。

1 原則は別居時

離婚の財産分与は、夫婦が結婚生活でお互い協力し合って築いた財産を公平に分けるために行われます。

「互いに経済的に協力」というのは、妻が必ずしも外で仕事して収入を得ている場合に限らず、夫が外で仕事をして、妻が家事育児を担っている、家計を管理している等も当然「協力し合って財産を形成している」ことになります。

そして、夫婦が同居している場合は、お互い経済的に協力し合っていると考えられますが、別居するとその夫婦はお互い協力し合う関係にないと考えられます。

そのため、家庭裁判所の実務では、財産分与の基準時は原則「別居時」とされています。

この点、大昔の判例(最高裁判所34年2月19日民集13・2・174)では、「最終弁論当時における当事者双方の財産状態の如きものも包含する趣旨と解する」、つまり、離婚に近い時期(裁判時)を基準にするかの例があります。しかしながら、この判例も、別居時を基準とすることを否定したのではなく、公平の観点から別居後の財産も考慮したものと考えられます。

2 財産分与の基準時としての「別居」とは

それでは、ここでいう「別居」とはどのような場合をいうのでしょうか。

身体的に別々に暮らしている場合がここでいう「別居」にあたります。身体的に別々に暮らしている場合は、夫婦が協力し合って財産形成していると考えにくいからです。

ここで、よく夫から、長年家庭内別居だったのだから、別々の住居でそれぞれ暮らし始めた時期より、ずっと早い時期から「別居」していると主張されることがあります。

確かに、同じ屋根の下で生活していても、それぞれが完全に独立して生活している場合は、家庭内別居も「別居」と言えるかもしれません。

しかしながら、実際は、一つ屋根の下で一緒に生活している場合は、完全に独立してそれぞれが生活している場合は非常に稀です。

しかも、夫が「家庭内別居」と主張する場合は、寝室が違うだけで、その他、妻が夫の家事をしていたり、家計を管理している場合も多く、その場合は、なおさら、協力関係の無い「別居」とはいえません。

そのため、「家庭内別居」は、財産分与基準時の「別居」とはいえないと考えてよろしいと思います。

3 別々に居住していても「別居」といえない場合

身体的に別々の住居で暮らしている場合でも、財産分与基準時の「別居」とはいえない場合があります。その典型例が、単身赴任です。

単身赴任は、通常、結婚生活には問題ないけど、夫または妻の仕事の都合で、夫婦が別々の場所で生活する場合です。この場合は、夫婦が協力し合って、家計を管理し、貯蓄などの財産を築いているのが通常なので、夫婦の経済的な協力関係があることは明白です。

同様に、最近時々あるのが、比較的低年齢の子が海外留学するのに、妻が付添って渡航し、妻子と夫が別居するというケースもあります。また、妻又は夫が単身で海外留学する場合もあります。これも単身赴任と同様に、夫婦の経済的な協力関係が続いているので、財産分与の基準日である「別居」にはなりません。

また、例えば、単身赴任するほど遠距離ではないが、夫の仕事が多忙で職場近くに別宅を借りていて普段は別々に生活しているという場合もあります。こも場合も夫が週末には妻子の家で過ごしたり、家計は妻が管理しているなど、夫婦の経済的な協力関係が続いているので、「別居」にはなりません。

目安としては、離婚前提、もう同居する予定のない別居が財産分与の基準日となる「別居」になると言えます。

先に述べた単身赴任に関連してよくあるのが、夫が単身赴任が終了したのに、妻の下に戻らず、そのまま別居を始めてしまうことがあります。この場合、夫が不貞している場合が多いのですが、この単身赴任後に開始した別居は、離婚前提、再度同居の予定ない別居と言えますので、財産分与の基準時としての「別居」となり得ます。

さらに、喧嘩の度に夫婦のどちらかが家を出て別居するが、しばらくして戻ってくるというように何度も別居と同居を繰り返しているような場合もあります。この場合、最後に別居した時点が財産分与の基準としての「別居」としている例が多いようです。

この点、家庭裁判所の審判例では、別々に生活し始めた時ではなく、それより、後の妻が夫に「戻らない」旨を表明した時期を経済協力関係が終了した「別居」時とした例もあり参考になります(横浜家庭裁判所平成31年3月28日審判:最高裁判所民事判例集74巻5号1534頁)。

もっとも、このように夫婦が別々に居住しているが、夫婦の協力関係が続いているから財産分与の基準としての「別居」ではないことを主張するためには、夫婦の協力関係が続いていることを示す証拠を示す必要があります。

4 「別居」後の財産も考慮される場合

例えば、夫が不貞して、それが原因で夫婦が別居し、長期間別居が続いた後に離婚する場合があります。これは、夫が有責配偶者(別居・離婚の原因がある配偶者)なので、夫から離婚請求しても、簡単には裁判所は離婚を認めてくれません。そのため、妻が離婚に合意しない限り離婚しないまま別居が続くというものです。このようなケースで、10年以上別居を続けている事案も少なからず存在します。

この場合もやはり、離婚財産分与の基準時は「別居時」なのでしょうか。

答えは、イエスです。別居時に存在した婚姻財産を分けるのが原則です。

しかしながら、このように別居時を基準とする原則を貫くことが不公平な場合があります。

例えば、夫が不貞をしたため、妻は幼い子を連れて別居した。妻は、夫から婚姻費用の支払いはあり、妻自身も仕事はしていたものの、幼い子の世話もあるため、仕事にたくさんの時間を割くことが出来ず、その分、収入も低く、婚姻費用と合わせても生活はぎりぎりで貯蓄など資産形成ができない。

他方、夫は、妻子に対して、婚姻費用は支払っているものの、夫は子の世話をする必要がないので、自分の時間を全て仕事や自分のために使うことができ、その分、高い収入も維持または収入も上がり、別居後に多額の財産を形成した。

このような場合、別居時に存在した財産を分けるだけとなると、不公平です。そこで、別居後の財産を考慮に入れて、財産分与額を判断されることがあり得ます。

具体的にどのように、どのくらい考慮するかは、ケースバイケースで、明確な基準は無いのですが、例えば、別居後、夫の収入が大幅に上がったのに、妻に低い婚姻費用を支払い続けていたという事情があれば、その部分が考慮されることがあり得ます。

また、妻子が婚姻中に購入した夫名義不動産に居住していて、夫がローンを支払っているからと言って、その分、婚姻費用を低めに支払っていた場合、別居後のローン支払いについても妻が寄与した(協力した)として財産分与額に加味して計算することが考えられます。

5 まとめ

以上が財産分与の基準時についてでした。

裁判においては、必ずしも別居時、基準時が明確でない場合も多く、その分、解決までの時間が長引いてしまうこともあります。

そのため、財産分与の基準日についても念頭に置いて証拠を準備することが重要です。

この記事を書いた人

弁護士髙木由美子

2000年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会所属:53期)。
弁護士登録以降、離婚・国際離婚などの家事事件を中心に扱い、年間100件以上の相談を受けてきました。ご依頼者がベストな解決にたどり着けるためのサポートをすることは当然として、その過程でもご依頼者が安心して進めることが出来るように心がけています。
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