国際裁判管轄~どこで裁判手続きができるの?
国際離婚の場合、どの国が国際裁判管轄を持っているのか、つまり、離婚や離婚に付随する手続きは、どの国で行うことが出来るのかが重要な問題です。
例えば、日本の裁判所に離婚訴訟などの訴えや、養育費審判の申し立てをしても、日本に裁判管轄がないとされてしまうと、訴えや申立の中身を検討されることなく、却下されてしまいます。
そこで、離婚や離婚に付随する手続きは、どの国で行うことが出来るのか説明したいと思います。どの問題であっても、夫婦、子どもが全て日本に住んでいる場合は、夫婦、子どもの国籍やどこで結婚や出産したかに関係なく、日本の裁判所に裁判管轄があり、日本の裁判所が審理して判決や決定を出してくれます。
国際裁判管轄が問題となるのは、夫婦と子のうち誰かが又は全員、日本国外にいる場合です。
1 婚姻費用分担請求の国際管轄
例えば、子がいる夫婦で、夫の方が妻より収入が多い場合、夫は妻に対し婚姻費用を支払わなければなりません。そして、現在、妻子は日本にいるが、夫はアメリカにいる場合、妻は、日本の裁判所に婚姻費用審判の申し立てができるでしょうか。
以前は、婚姻費用の国際裁判管轄について条文がなく、条理(つまり、どこで裁判することが公平化否か)で判断されていたのですが、平成30年4月25日に改正公布された、家事事件手続法3条の10で明確に定められました。
家事事件手続法3条の10 裁判所は、夫婦、親子その他の親族関係から生ずる扶養の義務に関する審判事件(別表第一の八十四の項及び八十五の項並びに別表第二の一の項から三の項まで、九の項及び十の項の事項についての審判事件(同表の三の項の事項についての審判事件にあっては、子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判事件に限る。)をいう。)について、扶養義務者(別表第一の八十四の項の事項についての審判事件にあっては、扶養義務者となるべき者)であって申立人でないもの又は扶養権利者(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判事件にあっては、子の監護者又は子)の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるときは、管轄権を有する。
長くて分かりにくいですが、簡単にいうと、婚姻費用の義務者(この場合は、夫)又は権利者(この場合は、妻)の住所が日本国内にある場合は、日本の裁判所に管轄権があるというものです。
ですので、上の例で、妻子が日本にいて夫がアメリカにいる場合は、妻のいる日本の裁判所で婚姻費用の審判をすることが出来ます。
2 監護権の国際管轄
子の監護権の国際管轄についても、以前は、条文が存在せず、条理で決められていましたが、家事手続法が改正され、家事手続法3条の8で、監護に関する申立をする場合の管轄について規定されました。
家事事件手続法第3条の8 裁判所は、親権に関する審判事件(別表第一の六十五の項から六十九の項まで並びに別表第二の七の項及び八の項の事項についての審判事件をいう。第百六十七条において同じ。)、子の監護に関する処分の審判事件(同表の三の項の事項についての審判事件をいう。第百五十条第四号及び第百五十一条第二号において同じ。)(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判事件を除く。)及び親権を行う者につき破産手続が開始された場合における管理権喪失の審判事件(別表第一の百三十二の項の事項についての審判事件をいう。第二百四十二条第一項第二号及び第三項において同じ。)について、子の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるときは、管轄権を有する。
この条文も分かりにくいですが、簡単にいうと、子の住所がある国の裁判所に管轄があると言っています。ですので、もし、子の住所が日本ならば、日本の裁判所が監護についての審理をし、判断をしてくれます。
ここで、どのような場合、子の住所が日本にあるといえるのかが問題となったケースがあります(東京高決平成20年9月16日:家月61巻11号63頁)。このケースでは、もともと父母子共に米国にいたのですが、母が、米国の裁判所での監護計画に違反して、子を連れて日本に帰国して、住民登録し、子を日本の保育園に通園させたという事案です。このケースでは、日本の裁判所は、母が監護計画に違反して子が日本にいる状態を一方的に作出したので、子の住所が日本にあるとはいえないとして、日本の国際管轄を否定しました。
このケースは、家事手続法3条の8が施行される前のケースではありますが、家事手続法3条の8が適用される場面でも、同様に判断されると思います。
ですので、子が日本にいるというだけでは、必ずしも日本に管轄が認められるわけではない場合があることは留意しなければなりません。
3 離婚
離婚の国際裁判管轄も従前は条文がありませんでした。最高裁判所の判例を基に判断していました。しかし、平成30年4月に人事訴訟法が改正され、国際裁判管轄について、明記されました。
人事訴訟法 第3条の2 人事に関する訴えは、次の各号のいずれかに該当するときは、日本の裁判所に提起することができる。
一 身分関係の当事者の一方に対する訴えであって、当該当事者の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
二 身分関係の当事者の双方に対する訴えであって、その一方又は双方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき。
三 身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
四 身分関係の当事者の双方が死亡し、その一方又は双方がその死亡の時に日本国内に住所を有していたとき。
五 身分関係の当事者の双方が日本の国籍を有するとき(その一方又は双方がその死亡の時に日本の国籍を有していたときを含む。)。
六 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、当該身分関係の当事者が最後の共通の住所を日本国内に有していたとき。
七 日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき。
これもまた、各条文が長くて分かりにくいですが、離婚に関連した条文をピックアップして簡単にいうと以下のとおりです。
1号 被告の住所が日本国内。例えば、夫が日本にいて、妻がアメリカにいる場合、妻は、日本の裁判所に離婚訴訟が出来ます。
5号 原告と被告の双方が日本国籍。例えば、夫婦共にアメリカにいる場合でも、夫婦いずれも日本国籍の場合は、日本の裁判所で離婚訴訟が出来ます。
6号 夫婦の最後の共通の住所が日本。例えば、夫婦が婚姻後、日本で同居生活を送っていたが、夫が1人でアメリカに行き、別居が始まったという場合、夫婦が同居していた最後の住所は日本なので、日本の裁判所で離婚訴訟が出来ます。
7号 日本で裁判することが衡平で適正迅速な審理に資する。例えば、夫婦がアメリカで同居して婚姻生活を送っていたが、その後、妻が1人で日本に帰ってきた。その後、夫の居場所が分からなくなってしまったという場合、妻としては、日本で裁判をするしかなく日本で裁判をすることが衡平だということで、日本に裁判官管轄が認められる余地があります。その他に、アメリカで婚姻生活を送っていたが、妻が夫の暴力を免れるために家を出て、日本に帰国し、妻がアメリカで離婚裁判をすることが困難な場合、日本で裁判管轄が認められる可能性があります。
4 まとめ
このように従前は法律が無く、どのような場合に日本に管轄が認められるのか明確に分かりにくかったのですが、法律が制定され、分かりやすくなりました。もっとも、ぴったりと条文に当てはまらない場合でも、子の福祉の観点や信義や公平の観点から、日本に裁判官管轄が認められると解釈できる場合もまだあるとは思います。