不貞慰謝料請求された方

突然不貞慰謝料請求の内容証明郵便が来たとなると、身に覚えがあったとしても、どう対応すれば良いのか困ってしまうのが普通です。どのような場合に不貞慰謝料請求がされるのか、それに対してどのように対応すればいいかなど説明いたします。

1不貞慰謝料請求

まずそもそも、どういった場合に不貞慰謝料請求がされるのでしょうか。

妻帯者である男性と、その男性が妻帯者であることを知りながら肉体関係を持った場合、妻に対する不法行為が成立するとして、その男性の妻から不貞慰謝料請求がされます。

なお、妻が不貞相手に請求できるのは不貞慰謝料で、離婚慰謝料ではありません。

2どのような形で請求がくるか、どう対応すべきか。

(1)内容証明郵便

多くの場合は、まずは、内容証明郵便で請求書又は通知書が来ます。

その書面には、不貞の事実と慰謝料金額が記載され、期限が設定されて、支払うように求めていたり、妻本人や代理人(弁護士)に連絡をするように求める内容になっていることが多いです。

このような内容証明郵便を受け取ったら、まずは、内容を確認して、弁護士に相談しましょう。

内容証明郵便に記載されている期限までに相手の求めていることをしなくても何か法的なペナルティがあったり、法的な義務が生じる訳ではありません。

ただ、不貞慰謝料の事案は、感情が大きく絡む事案ですので、無視をしたり、きちんとした対応をしないと、より一層こじれて、話し合い自体が困難になり、解決が長引いてしまう危険もあります。

そのため、相手からの通知には誠実な態度で対応しましょう。

期限前に弁護士に依頼し、弁護士から連絡してもらう、期限前に弁護士に依頼することができなくても、一度、相手に連絡して、今弁護士に相談中なので、待って欲しいなどと連絡すると良いと思います。

ただ、ここで、独断で内容について自分の考え等を伝えるのは避けましょう。言質を取られて、後の手続きで不利になってしまう危険もあります。

弁護士に依頼して、弁護士が連絡するか、弁護士に依頼しなくても少なくとも弁護士のアドバイスに基づいた言動をすることが必要です。

(2)訴訟

内容証明郵便などの通知の後、又は内容証明郵便の通知はなく、いきなり、訴訟を提起される場合もあります。その場合は、裁判所から訴状などの書類が特別送達(裁判所からの特別な書留)で届きます。

裁判所からの書類(訴状など)は、受取拒否をしていても、最終的には送達した(受け取った)ことにする手続きがされ、訴訟が進みます。ですので、受け取り拒否はせずに、受け取ってきちんと対応しましょう。

裁判所からの書類を受け取ったら、すぐに開封して中身を確認し、第一回口頭弁論期日の日時と答弁書の期限を確認しましょう。そして、至急、弁護士に相談してください。訴状などを受け取ったままそのまま無視してはいけません。無視すると、欠席判決で、相手の主張どおりの判決が下されます。判決が確定すると、その判決に基づいて、あなたの給与の差押えなどの強制執行されてしまう可能性もあります。

提訴された場合の多くは、相手に弁護士が付いて訴訟が開始されたということですので、ご自身も弁護士に依頼して、進めることをお勧めします。

裁判官の心証や相手の本心は、経験のある弁護士でないと把握するのが難しいです。裁判官と相手がどのように考えているのか分からないまま手続きを進めると、気が付かないうちの自分に不利な流れになっているということがあります。そのような状況を避けるために是非弁護士に依頼して進めてください。

3不貞慰謝料の相場

訴訟で裁判所が認める不貞慰謝料の額の相場は、100万円~200万円くらいです。

相手からの慰謝料請求が500万円とか1000万円など高額な請求が来ることがあります。主張すべき部分は主張して適切に対応することで、事情に応じた適正な金額まで減額することは十分可能です。

4免責又は減額される場合

不貞慰謝料請求されても、以下のような場合、慰謝料額が減額されたり、免責される場合もあります。

(1)性行為がない

不貞慰謝料が認められるためには、性行為をしている必要があるのが原則です。

もっとも、性行為を最後まで行ってはいないが、その直前や類似の行為があり、それが婚姻を破綻させた原因となる場合は、慰謝料が認められることがあります。ただ、その場合の慰謝料の額は、最後までの性行為があった場合に比べて少額になります。

(2)不貞の期間が短い、回数が少ない

不貞行為が1回だけだったり、交際していたとしても短期間だった場合は、長期間交際していた場合に比べて慰謝料の額は少なめになります。

(3)婚姻が破綻していない

不貞行為があった場合でも、別居や離婚をしていない場合は、別居や離婚をした場合に比べて、慰謝料の額が少額になります。

(4)消滅時効にかかっている

不貞慰謝料請求権は、被害者(妻)が損害および加害者を知ったときから3年で時効で消滅します。加害者を知ったときとは、請求できる程度に知ったときなので、名前と住所を知ったときです。

もっとも、被害者(妻)がいつ不貞の事実と加害者情報を知ったか否かは、加害者側には分からず、証明も出来ないことが多いです。

そのため、消滅時効の主張が出来る場合は、一度請求が来たが、その後、何も請求されず、3年以上経ったというような限定された場面だと思います。

(5)明らかに破綻していた後の不貞行為である場合

不貞慰謝料は、不貞行為を原因として婚姻が破綻した場合に認められるものです。

そのため、例えば、夫婦が不仲になり別居(破綻)して、何年も経ってから、夫が別の女性と出会って、交際を開始した、そしてそれを示す証拠がある場合は、夫の別の女性との不貞行為は、別居や破綻の原因ではありませんので、女性には不貞の不法行為は成立しません。

しかし、別居後ではあるが、別居後すぐの不貞行為の場合は、「破綻後の不貞」と主張が認められることはまずありません。

(6)夫婦円満ではない場合

不貞前に婚姻が破綻しているとまではいえない場合でも、夫婦が円満でなかった場合、不貞による夫婦関係への影響が少ないとして慰謝料を減額した例も少なからずあります。

(7)不貞配偶者が既に相応の慰謝料を支払っている

不貞行為は、夫と女性の2人による1つの不法行為です。つまり、不貞の慰謝料が200万円だとすると、例えば、夫と女性は2人で妻に対して200万円支払うという内容になり、夫も200万円、女性も200万円と二重に支払うことにはなりません。そのため、夫が妻に不貞の慰謝料として200万円支払った場合は、女性との関係でも既に慰謝料は支払われたということになり、女性が免責される(支払う必要がなくなる)ことになります(令和元年9月4日東京地方裁判所判決)。

この記事を書いた人

弁護士髙木由美子

2000年10月 弁護士登録(第一東京弁護士会所属:53期)。
弁護士登録以降、離婚・国際離婚などの家事事件を中心に扱い、年間100件以上の相談を受けてきました。ご依頼者がベストな解決にたどり着けるためのサポートをすることは当然として、その過程でもご依頼者が安心して進めることが出来るように心がけています。
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